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このレビューは購入から1年後に書いたもの。nightowl carbonは評価が難しいと判断したのと、書く気がでなかったから。 NightOwl Carbon. このヘッドホンは特に必要もないのだが35000円で売ってたので興味本位買ってしまったものだ。買う前は「評判が良くないけど、9万円が3.5万円になるってどんだけ音悪いんだよwwwまぁでも少なくとも3万くらいの音はするだろう・・・仮に音悪くてもけちょんけちょんに貶せばいいか。良い物は至宝と評価し、悪い物はゴミと評価するのが私のポリシーだし。」と考えていた。 実際に聴いてみると世間での評価とは全く違う結果になった。籠りの「こ」すら感じられないのだが・・・しかし所詮は他人の評価であり自分の評価とは違う。なので正直に書いておくことにする。 世間での評価とは全く違うというのはこのヘッドホンが抱える問題に起因するのだが、「いやー世間の評判通りでしたよ。35000円に値下がりするだけありますねw それ以外に書くことありませんよw」ってことにならないで良かったと考えよう。 nightowl carbonはバーンインノイズの製作に使っている関係上、フェアな評価が難しい。バーンインノイズ鳴らしちゃうと鳴らしてないヘッドホンは全く太刀打ちできなくなってしまうから。もちろん日常的に使っているので実力的なことは大体評価できているのだが。とりあえず、480時間、普通にエージングした時の印象を書いておく。 nightowl carbonの音 結論を言うとNightOwl Carbonは至宝だ。 ER4SR以上の性能・音質を持っている。解像度はER4SR(標準ケーブル)より+34段くらい上のレベル。HD650(標準ケーブル)の+110段くらい上の解像度だろうか。HD650(標準ケーブル)とは全く次元が違うレベル。当初は大型のダイナミック型ヘッドホンがバランスド・アーマチャー型のイヤホンを上回る解像度と言うのはちょっと信じられず何度も何度も聴き比べたが、結局ER4SR(標準ケーブル)より上の解像度と言う評価は変わらなかった。またER4SR(標準ケーブル)と比べてバックグラウンドが静寂で細かい音を良く拾う。ER4SR(標準ケーブル)が曇って聴こえるレベルで、ER4SR(標準ケーブル)のバックグラウンドにはもやもやした雑音があるのが分かってしまう。これはすごい。 奥行きはER4SR(標準ケーブル)より良く、ER4SR(標準ケーブル)の7mに対して、NightOwl Carbon(標準ケーブル)は11mくらい。イメージングもER4SR(標準ケーブル)より良く、ER4SR(標準ケーブル)より明確な音像イメージができる。また奥行き感が優れていることに加えてNightOwl Carbon(標準ケーブル)はスピーカーユニットの距離が離れている分ER4SR(標準ケーブル)より閉塞感なく聴くことができる。傾向はニュートラルだがややクリア傾向。高域に若干癖がありシンバルなど金物が耳につくことがある。 ただしこの癖はバーンインノイズを再生したら消えたので、普通にエージングしても超長時間なら消えると思う。バーンインノイズを再生した後の印象では、NightOwl Carbonは音のキャラクターそこまで大きなキャラクターは持っておらず、基本的にはER4SRと同じくフラットな音質でノンカラーレーションを目指したという方向性となる。 ・・・でこいつの何が問題なのか?特に問題はないよなぁ?音自体には問題はない。問題は世間との評価の剥離だ。そこで35000円まで値下がりした話に繋がる。 繰り返すがNightOwl Carbonのポテンシャルは非常に高い。HD650やSRH1540では全く太刀打ちできないほどレベル差があり、ER4SRと比べても倍とは言わないが4割増しくらいのポテンシャルがある。世の中が評価しなくても私は高く評価しておく。これほどのヘッドホンでありながらこのヘッドホンが35000円まで下がると言うのはやりすぎだし、製作者もラーメン発見伝の芹沢のごとく「俺は悪い夢でも見てるのか?」とか「世の中音の分かる奴はほとんどいないのか」と拗ねているかもしれない。個人的にも不当に低い評価なのは確かだと思うし、「このレベルのもの作って評価されんのか。世の中音が分かる人が驚くほど少ないんだな。」と思っていたのだが、このヘッドホンをバーンインノイズの開発に使っていて、このヘッドホンが低評価な理由が見えてきた。 恐らくだが、低評価な人と高評価な人では同じ音を聴いていない。と言うのが実態でしょう。NightOwl Carbonは音質の安定性は他のヘッドホンに比べると劣ると感じている。安定して高音質が出せるヘッドホンではない。よく言えばちょっとしたことでも音質がグンと上がるし、悪く言えばちょっとしたことなのに音質がガクッと落ちたりする。高性能なのだから、条件が同じならER4SRやSRH1540よりも常に良い音を出せそうなものだが、残念ながら条件によってはER4SRやSRH1540を下回ることがあった。 それから世間で言われているモヤ感について、私の個体は買った当初からモヤ感は一切なく、クッキリ傾向で音が若干シャラ付く感じだったが、バーンインノイズの作り方によってはモヤッとした音も出すことができた。なのでこの印象の違いは製造時に生じた個体差によるものではないかと考えている。ノイズによってこれだけ音のキャラクターが変わるとなると、製造時に振動板に入った僅かな歪の違いでも音のキャラクターが変わってもおかしくない。例えば製造時の気温や湿度でも違ってくるかもしれない。 ちなみにnighthawk carbonはエージング前だと音が曇りまくりで、HD650より遥かに音が悪くて、さすがにこれはひどいと言う音だった。NightOwl Carbonとは全く違う音。音質レベル自体が違う。エージングをしていくと次第に良くなっていったのだが、とてつもなく時間が掛かった。 また、このヘッドホンはノイズによって音のキャラクターがごろごろ変わる。他のヘッドホンでも変わるが、このヘッドホンはとりわけ変化が大きい。だから「このヘッドホンはこういった音のキャラクターです。」的なことは言いにくい。固有のキャラクターを持っていないわけではなく、持っていないはずはないのだが、本当にノイズによってキャラクターがごろごろ変わるものだから、これがこのヘッドホン固有のものだと言う確信がなかなか持てない。以前、ハウジング由来のウワーンとしたうなりが乗ると書いたが、これはハウジングが原因でなく振動板由来だったらしい。バーンインノイズで消えてしまう。聴いている感じだとHD650やSRH1540、ER4SRよりも本来の固有音は少ないんじゃないかと思う。その代わり外的要素の影響をものすごく受ける印象。バーンインノイズにしてもSRH1540やER4SRでチューニングして、良い音だと判断してもNightOwl Carbonだと良い音が出ないと言うことが多々あったので結局NightOwl Carbonでチューニングすることになった。このヘッドホンはノイズに少しでも問題があるとすぐに悪い音になってしまうので、かなり気難しいヘッドホンだと感じている。 また、聴いていて前日より開放感がなく音が曇って聴こえることがあったのだが、SRH1540だとそんなに音が変わらない印象だった。と言うことはNightOwlの音がおかしいのかと思い、いろいろ調べてみたら原因はアンプの敷物がずれていただけと言うのがあった。このヘッドホンはちょっとした違いも本当に良く拾うヘッドホンだが、良くなる時は本当に良くなるが、悪くなる時も大幅に悪くなる印象だ。このヘッドホンはこれを買ったから音が良くなると言う足し算的なヘッドホンではなく、オーディオシステムの音質劣化要素を一つ一つ潰していって高音質を得るタイプの引き算的なヘッドホンだと思う。 あとアンプとの相性が悪いと全く良い音が出ないことがある。CXA80の内蔵ヘッドホンアンプではゴミのような音しか出なかった。試聴ではPMA-60のヘッドホンアンプを使ったのだが、CXA80のヘッドホンアンプだと世間で言われているような籠りっぽい音になった。定位も奥行きも全然違ってしまう。これはアンプのキャラクターを反映しているのだろうか?でも私が認識していたアンプの音質差よりもずっと大きい感じだ。HD650(MUGEN-HPC579M)ではこんなに大きな差は認識できなかったけどなぁ・・・HD650(MUGEN-HPC579M)だとちょっとキャラクターが違う、ちょっと奥行きが違う、ちょっと解像度が違うなどちょっとくらいの差しかないんだけど、NightOwl Carbonは別のヘッドホンかと言うくらいの差があった。音が籠り気味で、奥行きが全くなく旧来のヘッドホンのような頭内定位になってしまう。HD650(MUGEN-HPC579M)やER4SR(標準ケーブル)ではそんなことないのだが・・・「あれだけ音が良かったNightOwl Carbonがなんでこんなクソホンになってるの?」と思ってしまった。 また、エージングはかなり長い。もう単なる劣化なんじゃないの?と思えるくらい長い。初めから音は良かったが、高域にエコー感がありシンバルの音がきつめに出る傾向があった。ER4SR(標準ケーブル)よりひどいレベルで。これのせいで音色が不自然で、自然さではHD650(MUGEN-HPC579M)やER4SR(標準ケーブル)よりも劣ると判断していた。音質でもER4SRよりは良いがHD650(MUGEN-HPC579M)を下回ると言った感じだったかな。168時間エージングしたあたりでシャラ付きはなりをひそめてきたが完全には消えなかった。振動板がバイオセルロースと言うことで、このシャラ付きは恐らく消えると考えていたのだが、エージングにかなり時間が掛かりそうだったので、大体500時間くらいでバーンインノイズの開発を始めて1000時間でパルスノイズのテストを始めたのだが、1200時間たった時にはシャラ付き自体は無くなった。普通の音源や、定常ノイズでは取れなかったシャラ付きが、パルスノイズを流し始めて100時間か200時間で取れたのでパルスノイズはかなり効果的だと感じている。だが、初めから完成したバーンインノイズを使った場合どれくらい掛かるか分からない。普通は200時間で十分と考えるが、このヘッドホンは500時間くらい掛かるかもしれない。普通の音楽を流していたのでは1000時間でも全然足りない。 ちなみに、nighthawk carbonでは普通の音源でエージングして、音が良くなりはじめるのが1600時間以降、メーカーの謳い文句に近い音になったのは3600時間以降だった。つまりnightowl carbon/nighthawk carbonはエージングにとてつもなく時間が掛かると言うことだ。 上記のことを考慮すると、このヘッドホンを低評価してる人は音が分からないのではなく本当にその通りの低評価な音を聴いてるのだと思う。まずこのヘッドホンの問題点として振動板由来の個体差が結構あると言うこと。私の場合はNightOwl Carbonは初めから結構良い音で鳴っていたが、nighthawk carbonはとても聴けたものではなかった。その音の悪いnighthawk carbonもエージングを続けると良い音を鳴らすのだが、次の問題はエージングにとても時間が掛かると言うこと。普通の人は1000時間を超えるエージングはしないし、そもそも当のメーカーが「初期エージングを150時間してください」と言っているのだから、音が悪い外れ個体に当たってしまうと「なんじゃこりゃ?」となってとりあえず150時間鳴らすものの、150時間程度ではいまいち変な癖が抜けずに大したことないと言う評価をされることが多いのだと思う。他にも環境に敏感だという理由も考えられるのだが、低評価の理由は上記の個体差とエージング時間の問題が大部分だろう。このヘッドホンに関しては他人が180度違うことを言っていても全く不思議に思わない。 その他/装着感など。 ・耐久性は不明だが、10年以上使っても全く壊れないHD650の信頼感には勝てそうにない。 ・装着感は良い。HD650やSRH1540より良いと思うが、「こんなのは頭につけられればどれも大差ないだろう」という考えなので細かいレビューは出来ない。 ・付属品に巾着袋が付いているが、はっきり言ってサイズが小さくて使えないレベル。エツミのレンズ用巾着袋の方がサイズもクッション性も圧倒的に優れている。ヘッドホンメーカーの人は自社のヘッドホンに巾着袋を付けるなら、まずエツミのレンズ用巾着袋を買って自分たちがいかにゴミのような付属品を付けているのか理解してほしい。そして付けるならエツミのレンズ用巾着袋以上のものを付属してほしい。 総じて言うと NightOwl Carbon(標準ケーブル)はER4SR(標準ケーブル)の上位互換的な音だ。完全に上位互換と言うと語弊があるが、目指した方向性は同じと言う感じ。このヘッドホンは音色の自然さ、音色の表現力、音楽性、ダイナミクス、低歪感、静寂感、解像度やイメージング、奥行き感、音場などほぼ全ての項目でER4SR(標準ケーブル)を上回っている。これはとんでもないヘッドホンだと思うし、メーカーのHPにはあれこれうんちくが書かれているのだが、書かれている努力はおそらく本当で、その努力は音としてきちんと結実していると思う。見た目は奇抜だが非常にまじめに作られたヘッドホンだ。だが、個体差と音質の安定性に欠けるのは問題だと感じた。音源の影響を受けて音が変わりやすいということだ。これらの問題が解決出来たら万人を納得させるだけの音質を得られるだろう。このヘッドホンはメーカーが言うほど完璧じゃない。だが現状でも音質的にはバランスド・アーマチャー型のイヤホンを超える解像度や表現力を実現しているという点においては一つのマイルストーンに達していると言って良い。NightOwl Carbonは不幸にも評価されなかったようだが、目指している方向性は何一つ間違っていないのでこのまま研鑽を続けてほしい。 ではNightOwl Carbonは買いかどうか? このヘッドホンは気難しいヘッドホンでいかなる環境でも安定して高音質が得られるとは限らない。限界性能は高いが安定性に欠ける。なので価格が9万円なら他人に勧めるのはリスクが高いと判断する。良いヘッドホンではあるが、誰にでも勧められるヘッドホンではない。では3万5000円ならどうか?「3万5000円でこのパフォーマンスはとても良い。気になるならリスクがあってもとりあえず買っとけ。」と思う。
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2020/10/18 執筆
2020/10/20 公開
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